「凶器をお持ちの方、attention please♪」

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あなたの仕事も、大変ですね~

 

 最近は学会や出張が多く、ほとんど毎週のように飛行機に乗っている。このブログも空港で書いている。仙台で学会があるので、まず飛行機に乗るのである。地方から地方への移動は飛行機なり新幹線の乗り継ぎがあり、待ち時間が多いのである。もっとも、ぼくの高松暮らしももう5年になるから、旅の待ち時間を有効に使うスキルはすっかり身についてしまった。大半の時間は論文を読んだり、書いたりしている。今回も本当は書かねばいけない論文や報告書がたくさんある。
 しかし面白いことを考えると書かずにいられない性分なので、まずそれを片付けてから。

 高松空港で聞いた、セキュリティチェックのアナウンス。

「はさみ、包丁、アーミーナイフなど、凶器をお持ちの方は飛行機に搭乗できません。」
 
 ぼくはこのアナウンスを聞いて吹き出してしまった。

 はさみをたまたま持っている人はいるかもしれない。服だってほころびることもあるだろう。昔気質のおばあさんならば、女性のたしなみとして、お裁縫の道具を持ち歩いているかもしれない。
 包丁を肌身離さず持ち歩いている人は、幸いなことにぼくの周辺にはいない。また、今後の人生でもなるべくそういう人とはお近づきになりたくない。だが板前さんなら、自分の包丁でないとしっくりこない、という人もいるかも知れない。そういう一流の板前さんならぜひお友達になり、つくった料理を食べさせて欲しい。やはり名人級の板前にもなると、外国に料理の実演のために招聘される場合もあるだろう。自分の包丁も持ってゆくに違いない。しかし荷物として預けるにしても、セキュリティチェックで引っかかるであろう。その場合にはどうするか?ぼくもマイクロの手術で他の病院に呼ばれる場合には自分の器械を持ってゆくが、ああいうのも「刃物」に入るのだろうか。今後、検討しよう。

 アーミーナイフを持ち歩いている人も、うれしいことにぼくが日常の生活において接触する人の中には、ただ一人としておいでにならない。ただ、新宿の歌舞伎町あたりに行ってアンケートをとると、10人に1人くらいはその手の道具を携帯なさっているかもしれない。わが四国の誇る英雄、坂本竜馬だって立派な刀を下げて写真に写っているではないか。武士道に心酔して「刀は武士の魂」と、武器を持っている方が、現代の日本においでになっても不思議ではない。ただし、やはり私は個人的には、そういう人たちとお友達になるのはご遠慮申し上げますけどね。Facebookで友達申請されても、ご辞退申し上げます。

 と、思わず敬語になってしまったところで核心に入ると、先のアナウンスのおかしさは「凶器」という言葉にあると思う。同じ包丁でも料理に使うならばそれは「道具」であり、人を殺傷したり威嚇したりするために使用するならば「凶器」である。つまり日本語を正しく解釈すると、「はさみ、包丁、アーミーナイフを機内に持ち込んで、人を殺傷したり、威嚇したりすることは許可されていません」ということになるはずだ。

 だがそんなことは当たり前なのであり、アナウンスした職員の意図するところは、「はさみ、包丁、アーミーナイフを機内にお持ちになることは、仮にそれらの道具を犯罪目的に使用する意図がなくとも、禁止されています」ということだ。


 こんな難しい理屈をこねなくとも、「はさみ、包丁、アーミーナイフなどの道具を機内に持ち込むことは禁じられています」と、「凶器」を「道具」に言い換えればすむ話なのである。 

 要点をまとめると、結局そういうことになるのであるが、こういうくだらない話を考えるとなると、ぼくの頭は俄然、冴えてくるのである。

もっと面白いアナウンスはないだろうか。「ひねり方」の側面から分類してみた。

① 引き合いに出す対象物をひねってみる
 先のアナウンスが滑稽だったもう一つの理由は「はさみ」と「包丁」は「道具」で、「アーミーナイフ」は「武器」であり、全く異なったジャンルの器物であるのにそれを混同している点だ。 そこをふくらませてみよう。
 「はさみ、包丁、スタンガン、鎖がま、ヌンチャク、手裏剣、槍、斧、青竜刀、仕込み杖を機内に持ち込むのは禁止されています。」と言ってはどうだろうか。

 世界は広いから、他にもいろいろ武器はあるかも知れない。
 「では吹き矢は良いのか」
 「コブラなどの持ち込みはよいのか」
勝手にしてください。アマゾンやインドのローカル航空なら良いかも知れませんね。ぼくはそういう飛行機には乗りませんけどね。

② 持ち込む理由をひねってみる
 「機内への刃物の持ち込みは国土交通省の指示により禁止されております。職業柄、上司の方を対立会社の方にドスや拳銃などで傷害されて、その返礼のミッションを社命として授かっておられる方もおいでになるかも知れません。ですが、お使いになる道具はなるべく機内には持ち込まず、現地調達でお願いします。ちなみに機内販売でも出刃包丁やジャックナイフは販売しておりません。」
 書いていて思ったが、飛行機で「寅さん」は何回も見たことがあるけれど、高倉健のシリーズはなぜか見たことはない。それ以外のヤクザ映画も見たことがない。ひそかに、国土交通省のお達しで禁じられているのだろうか?「ランボー」や「ブルース・リー」シリーズも辞めた方がよいだろう。

③ 本音でストレートに表現してみる
 ぼくとかなり仲の良いアメリカ人いわく、彼の出身地であるカンザス州では”rude diner ”なる代物があって、そこではウェイトレスが威張っているのが売り物らしい。
 客が入ってくると腕組み、仁王立ちで「なんにすんの!もたもたすんじゃないよ!」とオーダーをとり、水やワインを頼むとガチャン!と音を立てておいてゆくらしい。それでいていつも満員というのだから不思議だ。
 ぼくは是非、カンザス州にはあると言われるこういうdinerに行ってみたい。しかし今のところ残念ながら、その機会がない。だれか行った事がある人がいれば、状況を教えてほしい。ぼくの後輩でも現在アメリカで活躍している人がたくさんいるのだが、機会があればぜひrude dinerに行ってみて欲しい。日本でも新宿の二丁目あたりに行けば、こういう店もあるかも知れない。

 こういうrude dinerと同様に、日本の航空会社でもたまにはキャビンアテンダントの本音をぶちまける日があってもよいのではないか。
 「当機の安全な運行のため、刑事事件の前科のおありのなる方、アル中の方、テロリストの方、ハイジャックを予定している方のご搭乗はご遠慮ください。」
 礼儀を重んじるわが国のこととて、言葉遣いはやっぱり正しくね。でも言うことはきっちり言わないと。
 「酒気を帯びられている方はなるべくご搭乗をご遠慮ください。やむを得ず嘔吐される際には、他のお客様のご迷惑になりますので飛行機を降りてからお願いします。また、無理にトランクに荷物をお詰めになりますと飛行中に開く可能性があるのでご注意ください」

上記をキャビンアテンダントの本心に翻訳すると以下のようになる。
 「出張帰りで浮かれるのはわかるんだけど、空港でそんなに酒飲むんじゃねーよ。オッサン。だいたい、空港の酒なんてめちゃ高いでしょうが。日ごろ、昼飯は500円のコンビニ弁当を食ってんのに、紙カップ一杯800円のビールなんか飲んでどうすんだよ。あーあ、ご丁寧に250円の『香川特産オリーブポテチ』なんかつけちゃって。そんなもん、普通のポテチにちょろっとオリーブ油まぶしているだけだよ!全く無駄遣いして。まだ、家のローン残ってんだろ。機内で吐いたら、マジ、クリーニング代請求するよ?そしたらあんたら、一ヶ月、昼飯抜きだよな。あと、オバハンたちに言いたいんだけど、機内にお土産のお菓子いっぱい持ち込むのは止めてくれない?あんたら身長低いからトランクに詰めんの、私なんだけど。第一、また太るでしょうに。そもそもあんたが買ったお土産のまんじゅう、千葉県の工場で作ってんだよ。後ろのラベルに小さな字で書いてあんでしょーが。」

 このようなことをずっと考えたり、書いたりしているから、ぼくの旅には退屈の時間などないのである。