高校同級生とのコラボレーション

 昨日(平成31年3月16日)、東京で麻酔科をしている、高校時代の同級生のJ君に香川に来ていただいた。


 J君は奥様が隣県である岡山のご出身なこともあり、私が香川に赴任してからも、たびたび高松においでいただいていた。香川は自然が美しいし、食べ物が美味しいから旅行先として魅力があるのであろう。夏休みなど奥様のご実家を訪問するついでに、瀬戸大橋を渡るマリンライナーにのって香川にまで足を運んでくれていた。当然、香川に来ていただいた時には高松の街でミニ同窓会をしていたのだが、そんな中でJ君に仕事で、つまり麻酔をかけるために香川においでいただくことを思いついたのだ。


 香川大学形成外科を受診される患者さんは多いので、手術を受けようと思っても、大学病院ではすぐには予定が入らない。そこで別の病院に患者さんにおいでいただいて、その病院で手術をやらせていただくことがしばしばある。そんな中で困るのは麻酔をかけてくれる先生を探すことだ。大学にも多数、麻酔科の先生はおいでになるのだが、なかなか忙しくてお時間をいただくことはできない。ましてや土日に働いてくれとは頼みにくい。とはいえ、少し大きな手術になると、局所麻酔では不可能だ。そこでどうしたものかと考えあぐねた結果、出たアイディアだ。


 「東京から香川まで働きに来るなんて」と思うかもしれないが、医者の世界ではこうした「遠距離勤務」はごく普通だ。東京から北海道まで、週末だけ眼科の手術をやりに行くとか、香川に居住しているのに月曜日は東京で乳がんの手術をやりに行く、なんていうケースはいくらでもある。


 さて、J君の麻酔で手術を行ってみると、非常に気持ちよく働くことができた。永年の友人だから何となく相手の行動パターンは予測がつく。だからJ君は私が手術中に少し大きな操作をする際には黙って麻酔を深くしてくれたし、私も彼をおもんばかって極力、手際よく手術を進めた。外科医と麻酔科医の信頼関係というのはホントーに重要だということに改めて気がつかされた。


 やはり同級生というものはいいものだ。僕の卒業した高校は、官僚を輩出するある大学に進学する卒業生が多いことで知られているが、医学部に進んだ人間も非常に多い。大学は千葉大・東大・医科歯科・そして僕が進んだ慶應大学などさまざまに分かれているのだが、同級生は同級生。僕は形成外科に進んだが、同じ学年の同級生をちょっと思い出すだけでも、内科・外科・泌尿器科・脳外科・整形外科など、ほとんどすべての科に知り合いがいる。


 そこで少し考えた。皆、今はけっこう立場が上になってしまって忙しいが、あと15年くらいすれば、公立の病院に務めている人は定年になるし、開業している人も少しは時間に余裕が出来てくるだろう。だから同級生が集まって総合病院をやるのはどうだろうか。


 僕は形成外科に関していえばプロフェッシヨナルとしての自信はあるが、畑違いの分野には疎い。例えば、今、喘息の治療はどういうことが最先端なのか、なんてことはわからない。でも知りたいと思っている。同級生の専門家が身近に入れば、気恥ずかしさを感じることなく質問ができる。
 また、例えば腎移植の手術など、他の科の手術ももやってみたいと思っているが、今の立場だと不可能だ。でも仲間同士でやっている病院ならば、科と科の垣根など全くないだろう。形成外科でも腎臓とは異なるが、組織の移植手術は頻繁に行っている。だから泌尿器科医の同級生が腎移植の手術をするような場合、形成外科医の私が助手に入れば、かなり役に立つはずだ。お互いにいままで知らなかったことを教え合えるのではないだろうか。私も腎移植の手術を学べるし、win-winの関係になれるであろう。


 というわけで、同級生で総合病院の構想、いつかはぜひ実現したいものだ。
 僕は縁あって四国に来たが、この構想を実現するには東京より地方の方が有利だと思う。若い医師は東京や大阪の生活を志向して地方には残りたがらない。ゆえに地方では若い労働力の不足に悩まされている。東京や大阪で密度の薄い研修を行うよりも、地方でも大学病院クラスや日赤などの病院で集中的に研修を行う方が、ずっと実力がつく。長いスパンで見ると結局は得になるのだが、口を酸っぱくしてこの事実を説いても、本当にかしこい研修医以外は、理解できない。だから最近は少し疲れモードで、若者が無理解ならば、中高年が頑張ろうぜという気になっている。


 ともあれ、すくなからぬ数の若い研修医が大都市に行くものだから、大都市では医師は余ってきているし、地方では医師の確保が難しい病院がたくさんある。そういう病院に同級生で集団就職するというのも、第二の人生として「あり」だろう。有志を募って困っている病院を救うストーリーは、何かかの有名な映画「7人の侍」に似ていますね。総合病院をやるには何かが必要だろう。僕は3年ほど外科をやっているから、外科はできると思う。もちろん形成外科も、場合により皮膚科も。J君が麻酔科だから、あと内科・眼科・泌尿器科あたりだね。今度、同窓会があったら皆に話してみよう。