最近、漏斗胸の治療を受けに香川大学に来てくださる患者さんの知的水準がおしなべて高いことに気がつきました。

 多くの患者さんは私の運営しているサイト(「むねのかたち研究室」)をご覧になっておいでくださっています。このサイトを作るにあたって、私はふたつの原則を常に頭においています。

 第1の原則は「主観を極力排除して記事を作成すること」です。外科の手術というものは理詰めで行わないと上手く行きません。合理的に手術を組み立てるためには、はたして自分が行おうとしていることは正しいのか、ということを常に自問しなくてはいけません。サイトを作る上でも同じ姿勢を保つように心がけています。

 第2の原則は、「ある科学的な主張をするためには、かならずその根拠となる理論を添える」ということです。私は外科医ですから時折、外科の学会に参加します。そうした学会の質疑応答で辟易させされることが、ままあります。論理的な問答がなされないことが多々あるからです。

 例えばある先生の手術の方法に疑問を感じたとして、「あなたの術式はこうですが、ここを少し変えた方が良いのではないですか」と質問をすると、「私はこの術式で何十年もやっています!」という答えが返ってくることがあります。

 これは質問に対する答えにはなっていません。尋ねているのは「あなたはその術式をどのくらい長く行っていますか」ではなく、代替として示した案と現在の方法とを比較して、その優劣を論じることのはずです。したがってあるべき答えは例えば、「あなたの術式ではAの点については良いが、Bの点については問題がある。ゆえに自分は現行の術式を好む」という答え方のはずです。このような理にかなわない答え方を、私は好きではありません。ゆえに自身はなるべく論理的に、筋の通った説明をするように努力しています。

 自画自賛になるかもしれませんが、このような姿勢が、理論を重んじるタイプの人々の共感を呼んでいるのではないかと思っています。