専門医制度に対する医学生の反応について

 本年度(平成30年)から新専門医制度が導入されました。新制度の導入に伴ってどのように研修先を若い人たちは選ぶのかな、と興味を持ってみていましたが、結果は東京への研修医の集中を加速させることになりました。前年に比べると130%ということです。

 この現象の背景にあるのは、「今後、どの科に進むにしても専門医をもっていないと話にならない」という医学生たちの危機感なのでしょう。自らの将来に対して危機感を持つということは、真剣に人生を考えていることでもあり、その点は評価できます。

 しかし、もし東京には症例が豊富で、地方では少ないと彼らが考えているとしたら、それは根本的な間違いである、ということは教えてあげたい。

 私が4年前まで在籍していた大学は、かなり東京でも有名な大学です。その大学の形成外科と、現在の大学病院(香川県)とを比較すると、こと形成外科に関していえば、むしろ現在の方が症例が多いのが実情です。たとえばがん切除後の再建手術についていえば、前任の東京の大学ではせいぜい年間に25例程度しかありませんでしたが(4年前の数字)、現在の施設では年間で30~40例ほどの依頼を受けます。

 この原因は少し考えてみるとすごく簡単です。東京には13の大学の医学部があります。またそれらの分院、そしてがんセンターや成育医療センターのような、大学に匹敵するレベルのセンター病院もあまたあります。こうした大学病院クラスの病院を数えてみると40ほどあります。東京の人口を1300万人とすると、単純計算で1大学病院(あるいはそれに該当するレベルの病院)が担当する人口数は30万ほどになります。

 これに対して例えば香川県では、100万の人口に対して高度な医療を提供できる病院は大学病院のみです。もちろん県立や市立の病院はありますが、それらの病院で提供しているのは一般の医療です。ゆえに、こと高度医療ということに限定して言うと、100万の人口をひとつの病院で担当していることになります。

 この点だけから言っても、症例を経験するためには地方大学の方が大方にして有利であるということがすぐ判りそうなものです。

 さらにもう一つの要素も考えなくてはいけません。それは、東京など大都市には過度の研修医が集中しているという問題です。前述した如く、分子である「一病院あたりの症例数」は東京の方がむしろ少ない上に、多くの研修医で症例を分けなくてはいけません。東京の大学病院の研修医の密度は(少なくとも形成外科に関していえば)、地方と比べると3倍ほどの(!)濃さがあります。ということは少なめな症例数が、一人当たりで言えば3分の1になってしまうということです。

 この結果、研修を始めて4~5年経っても一人前に手術ができない若い医師が激増している、というのが現状です。

 医師の人数の格差がマスコミに取りざたされています。曰く、「東京に研修医が集中しすぎているので強制的に地方に配分する仕組みをつくれ」というものです。

 ただ無理矢理何か制度をつくったとしても、人は納得しないことには動いてくれません。地方で研修をすることの良さ、むやみに都市部に移ることの愚かさに、賢い若者はそのうちに必ず気が付くはずです。そうした認識から、今の東京の「研修医バブル」は崩壊してゆくのではないかと私は思っています。