香川の休日は、アフタヌーン・タコ

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文字のフォントは大切ですね

 休日とはいいものだ。

 ウィークデーは誰しも忙しい。

 学生なら学校へ行かなくてはいけないし、勤め人なら会社に行く。

 働いてばかりいては体に悪い。

 だから土日には、ゆっくりと心と体を休めるべきである。

 特に休日の昼に悠然と食事をすると、非常に心豊かな気分になる。

 現代人は夕食に力点を置く。

 しかし人類の歴史を紐解いて見れば、昼食に力点を置く文化の方が多い。

 たとえば古代ローマでは、正餐は昼食であった。

 就眠前に重い食事をとると胃腸に負担がかかるから、昼に豪華な食事をする方が理に適っている。

 休日のランチを至福の時間とする人は多い。

 食事の内容は、おのおのの人の年齢や、社会的状況に応じて大いにことなるだろう。

 若い男性などだと、「日曜の昼は『ラーメン二郎』で肉と野菜のマシマシだ」などという人もいるだろう。

 田園調布にお住いの主婦などは、「休日の午前中はいつもバイオリンの練習をして、その後はフレンチで軽いコースですの。おほほ。」ということになろう。

 香川にお住いのワタクシの場合はですね、休日のランチは、いつもタコですの

 海に面したテラスに腰かけて、潮風に吹かれながらタコを食べると、大変に美味しい。

 

 なぜ、タコ?と、多くの人たちは思われるであろう。

 食べ物には、日常性の高いものと、そう高くないものがある。

 たとえば、コメやパン、麺類などは日常性が高い食べ物である。

「ぼくは、朝はいつも、ご飯を食べて出かけます」と聞いても、別に違和感はない。

 ところが、「ぼくは、朝はいつも、フカヒレスープを飲んで仕事に行きます」と聞くと「はあ?」と思うであろう。

 これは、「ご飯」が日常性が高い食べ物であるのに対し、「フカヒレスープ」の日常性が低いからだ。

 おなじ事がタコにも言える。

 「なぜタコ?」という疑問が生じるのは、タコなんてそう日常的に食べる物ではないという、共通の理解があるからだ。

 もっとも、「日本タコ学会」や「タコを愛する会」などがあって、ぼくがそのメンバーであれば話は別だ。

 ところがぼくは(少なくとも今のところ)そういう会のメンバーではない。

 それなのに、日曜のランチがタコばかりになるのは、ぼくにとって論理的必然なのである。

 今日はみなさまを香川県のミニツアーにご招待しつつ、そのことについて書く。

 

 ぼくは体を動かすのが好きなので、週に何回かジョギングをする。

 平日は忙しいので、朝に家の周りの道を走ることしかできない。

 しかし土曜や日曜日の午前中には時間がある。

 だから車で景色の良いところへ行って走る。

 香川県では、車で20分も運転すれば海にでも山にでも行くことができる。

 ぼくは海が好きなので、海に行く場合が多い。

 

 家から5分くらい車で走ると、とりあえず道ばたに牛小屋がある。牛がいる。

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 ぼくは牛や馬、羊などが大変に好きである。

 大陸の遊牧民族の血を引いているのだと思う。

 東京に住んでいたころには、たまたまドライブで牧場のそばを通ったりした際には、よく立ち寄っていたものだ。

 ところがそういう牧場は、だいたい観光用である。

 千葉県にある「マザー牧場」であるとか、栃木県にある「りんどう湖ファミリー牧場」がその代表である。

 こういう牧場は、子供たちには動物に親しんでもらい、大人たちにはひと時のやすらぎを与える、バーベキューなんかも出す、そういうスタンスで運営されている。

 下の写真は千葉県にあるマザー牧場で、観光用の牧場の代表格である(今日のブログの中でこの写真だけはネットから採らせていただきました)。

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 こういう観光用の牧場もそれはそれで、良いものと思う。

ただ、ぼくのような、筋金入りの牛馬愛好者にとっては、なにか「よそ行き」的な感じがするのです。

 ワインのソムリエールは、ワインの特徴を言葉で表現する。

 たとえば、さわやかで甘い香りがするが、今一つ熟成の足りないワインを飲んだ時など、「イチゴ畑に立っている、少女から大人になりつつある、18歳か19歳の美少女のような」と表現する。

 こうした表現に倣って、マザー牧場など、観光用の牧場に対するイメージを表現させていただくと、「銀座の高級クラブでにこやかに微笑んでいるホステス」という感じである(そんなとこ行かんが)。

 きれいではあるし、楽しそうでもあるのであるが、客に対する「おもねり」が鼻につく。もっとも、彼女らも商売でやっているのだから仕方がない。

 かたや道端の牛小屋は、ソムリエ風に表現すると、「下町のラーメン屋で注文を取っている看板娘」という感じである。

 媚びとおもねりがない。

 ぼくはそういう雰囲気の方が好きである。

 

 そこでその牛小屋を通りかかった時には、2度に1度ほどは車をおりて、牛たちの様子を見て楽しむ。牛たちも牛好きの人間が判るのか、ぼくが行くと寄ってくるようになった。

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 この「牛飼い場」の良さがわかるようになれば、あなたも「通」の牛馬好きである

 こんなにおもむきのある牛飼い場は、おそらく六本木にはあるまい。

 

  また5分ほどゆくと、タケノコを発見した。

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 道端に普通にタケノコが生えているあたりは四国ならでは、と思う。

 おそらく、銀座や新宿には、タケノコは生えておるまい。

 “Viva、DOINAKA!”と心の中で叫びつつ、運転を続行。

 こうやって道草を食いながら行っても、20分くらいで海に着く。

 海辺に車を停めて走り出す。ここは海水浴場になっている。

 

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 ビーチの長さは500メートルくらいである。7月下旬の一番にぎわう季節には、200人くらいの人がやってきて海水浴をする。

 しかし初夏には、週末でもせいぜい20人くらいの人しかいない。バーべキューをしたりキャンプチェアでのんびりしたりしている。

 

 1キロくらいウォームアップで走ると、漁港に到着する。

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 砂浜と岩場が混在するのが瀬戸内海の不思議なところである。たとえば三陸の海であれば、砂浜は少ないであろう。また、たとえば静岡の海であれば、岩は割合に少ないのではないだろうか?これらの県の海は、陸地に囲まれていない、いわゆる外海である。だから構造が単一である。

 しかし香川県の海は淡路島によって隔絶された内海であるので、潮の流れが複雑で、急流もあれば、きわめて流れが緩い場所もある。そういう、海流の多様性が地形に反映されているのだと思う。

 漁港には防波堤や埠頭がある。海をじっくり見たいときには埠頭を渡る。

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 海辺を少し離れて、浜辺に面した道を行く。家々の塀が立派だ。瀬戸内海は他の海に比べると穏やかな海である。しかし街中に比べると遮蔽物に乏しいので、やはり嵐の時は風が強い。加えて香川県は、庵治など、良質な石材を豊富に産出する場所も抱えている。このため立派な塀が多いのだろう。

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 塀の上は瓦で装飾されている。瓦のところどころに恵比寿様や布袋様などの小さな像がある。鯉や竜などの像もある。像の選択は単純な好みなのか、家格や家業を反映するものなのか、そのうちに調べてみたい。

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 このあたりは香川県さぬき市の津田というが、昔はかなり漁業で栄えたと聞く。

立派な塀を持っている家は、網元だったのかもしれない。

 

 港がある。高松から約1時間かかるこの場所を、わざわざ訪れる酔狂な観光客はまずいない。したがって同じ港とは言っても、たとえば横浜の山下公園とはだいぶ異なっている。悪く言えば、見てくれに対する配慮が全くない。よく言えば、「おもねり」が全くない。

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 この港は、魚を獲るために必要だからあるのである。先の牛飼い場の件でも書いたが、ぼくはそういう、景色の「そっけなさ」が好きだ。

 

 先ほどの海水浴場から10分くらい走ってゆくと、別の、より長い白浜がある。この白浜の長さはほぼ1キロである。砂浜に沿って石畳で舗装がされているので、ジョギングにはまことに都合が良い。

 

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 この砂浜に来るまでに、およそ5キロほど走っている。他のジョガーもそうであろうが、ぼくはその時の体調に応じて走る距離を変える。このビーチの長さはほぼ1キロだから、距離の計算が簡単である。体調のすぐれない時には、このビーチを1往復だけする。これで7キロである。調子が良い時には3往復する。11キロになる。

 

 長い石畳の端にプレハブ小屋がある。地元の水産組合、つまり漁師さんたちが、とれた魚を調理してここで販売する。この店は土日の昼しかやっていない。

 調理された魚はトレーに入っている。家にもって帰って食べることもできるし、その場で食べることもできる。

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 その場で食べる人のために、店の前に何組か、椅子とテーブルがおいてある。

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 海に近いところにもテーブルと椅子がおいてある。これらのテーブルからの眺めは非常に良いのだが、屋根(ビーチパラソル)がない。だから土日でも、だいたいいつも空いている。

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 店の中にはいろいろな料理がおいてある。瀬戸内海では鯛やタコが非常によく獲れるので、これら2種類の魚はだいたいいつもおいてある。季節によって魚の内容は変わり、太刀魚やサワラ、イカなどがならぶこともある。

 店内の様子をご覧になりたい方は、

 https://www.chumiumi.com

 をご覧になってください。

 値段も安い。例えばイカやタイの刺身がたっぷり入ったトレーが、ひとつ500円か600円くらいで売っている。

 

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   ぼくはタコのおでんが気に入っている。20センチくらいはある長いタコの脚を、大根ならびに玉子と一緒にゆでたものである。タコと一緒に煮ているので、玉子は薄紅色に染まっている。そのため、このおでんに対して店は「さくらおでん」という名前を付けている。これで値段は600円である。他の料理に比べると少し値段は高いが、入っているタコが大きいので十分に納得できる。

長い距離を走った後には身体が塩分を欲するので、このおでんが、まことに美味しい。

 そこで、ほぼ毎回、ぼくはこの「さくらおでん」を購入するのです。

 

 太刀魚のエスカベッシュというのを売っていたのでゲット。エスカベッシュというのは地中海風の南蛮漬けのことで、オリーブオイルとレモンで味付けしている。店で食べる人には、みそ汁もつけてくれる。

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 香川県は風光明媚で、地中海に似ているのではないかと、ぼくはいつも思っている。だから「オリーブ県」もしくは「エーゲ県」とでも言えば良いものを、「うどん県」など自分で命名して自らイメージを損なっている。歯がゆいことだ。

 

 ほぼ毎週末、この店に来ているので、店の人はぼくのことを覚えてくれた。一人で気兼ねなくすごせるようにと、テーブルを一人用にしつらえてくれた。海を見ながら食べる魚は、本当に美味しい。

 英国にはafternoon teaもしくはhigh teaと呼ばれる習慣がある。

 上流階級の人間が、午後にゆっくり食事を楽しむ習慣だ。

 ぼくは英国人でも上流階級でもないが、こうやってゆっくり食事をしていると、彼らの気持ちがよくわかる(ような気がする)。

 もっとも、同じことをを上野でやったら、単なるホームレスの宴会であるが。

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 話をまとめよう。

 ぼくは週末にはジョギングを楽しむ

→景色の良いところでやると気分が良い

→よって海辺でジョギングをする

→地場の魚を売っている店がある

→そこはジョギングのゴールである

→美味しいタコのおでんを売っている

→汗をかいたので、塩分が欲しい

→ゆえに、おでんを購入する

→英国の貴族のごとき、優雅な気分で食事をする(アフタヌーン・タコ)

 上記の因果関係には、露ほどの飛躍も無い。だれがやってもこうなる

と、やや強引な論理により「アフタヌーン・タコ」を正当化したところで、本日は終わる。

 今回のブログは、コロナの流行で旅行ができない皆様に、田舎を旅した気分になっていただくために書いた。

 香川県の雰囲気を皆さまにお伝えすることが目的だから、少しくらい論理展開が強引でも良いのである。

 というわけで、みなさんぜひ一度、香川県においでください。