ある島の問題

 この連休に瀬戸内海に浮かぶ男木島という島に行きました。そこで非常に深刻な話を聞きました。みなさまにも知って欲しいと思い、筆をとります。

 男木島は美しい島です。高松からは連絡船で40分かかります。香川県民にとっては散歩の感覚で行けるところです。
 自然も豊かなことながら、独特の街並が有名です。港近くのやや傾斜のすくない地域に、住宅が密集しています。おそらく潮風や嵐に対する対策なのでしょうが、密集した住宅の間を縫う路は石畳で作られており、その両脇の壁は石垣で出来ています。なかには江戸時代くらいから残っている石垣もあるようで、島の名物になっています。
国際的にもこの美観は高く評価されています。3年に一度、開催される瀬戸内芸術祭では、多くの外国人がこの石垣の街並を見るためにやってきます。

 ここで書く内容は、この石垣に関することです。まずは男木島の美しい風景をご覧になってください。

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男木島の景観と街並

 このように美しい景観と街並をもつ男木島ですが、島にお住まいになっている方によれば、石垣の保全が危機的な状況になっているそうです。なぜ状況が危機的なのかをお聞きして、私は愕然としました。

 石垣というのは当然のごとく、石を積み重ねて出来ています。石をびっしりと敷き詰めて家の基礎を作っているのだと私は思っていました。それゆえ盤石で、何百年も耐久するものであると思い込んでいました。ところが石でできているのは外側だけで、その内側は土で出来ているそうです。内側にある土には外層の石を固定する力はないので、時々外れ落ちてしまうそうです。下の写真に示したように石が外れてしまっている箇所を、いくつも見ました。


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こわれた石垣

 石垣は美観のためだけでなく、機能的にも考え抜かれて作られています。

 雨が降った時、雨は家の周辺の土に沁み込み、石垣の方に流れて行きます。そして石垣のすきまから排水されます。家の湿度を適度に保つため、非常に合理的にできたシステムです。

 

 

 

 

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石垣と排水

 ところが一部の石が外れてしまうと、雨水と一緒に家の基礎を作っている土砂が流出してしまいます。このため土台が空洞化してしまうのです。当然のごとく、家は不安定になります。

 

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土砂が流れる問題

 土砂の流出を防ぐためには、コンクリートで「しっくい」を作って、石垣のすきまを埋めてしまえば良いのではないかと思うかもしれません。ですがそれをやると、家の下に水が溜まって家屋に湿気をもたらします(下図)。この結果、柱などが痛んでしまいますし、カビも生えやすくなります。居住者の健康にも影響が出るでしょう。

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コンクリートでは修復できない

 

 それゆえ石垣の石が外れた時には、まめにすき間を埋め直さなくてはいけません。
 また、流出した土砂は補わなくてはいけません。

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まめな修復が必要

 しかし島の道は狭く勾配も急であるので、機械を使って石を運搬するのは困難です。
 ゆえに作業のかなりの部分を人力で行う必要があります。ですが、離島の例にもれず高齢化が進んでいるので、作業を行いたくてもなかなか行えないそうです。また後継者もいないので、このままではまずいと思っていても直す気も起らない人が少なからずおいでになるそうです。

 先にも書いたように、街並を構成する石垣の中には、何百年も前に建造された部分もあります。男木島の石垣は、重要な文化遺産です。これを失うことは日本の損失です。  

 そこで保全のために何か協力できないか考えてみました。工事を手伝うのはさすがに現実的に困難ですが、こういう問題があるということを知ってもらえば世間の関心を、少しは集められるのではないかと思ってこのブログを書いてみました。読んでくださった方、ありがとうございます。

 またできれば男木島に、一度おいでになってみてください。